萌尽狼グ

音系同人サークルASIA LUNAR代表、萌尽狼(もえつきろ)の個人ブログ

『こもりクインテット! (3)』は「音が聞こえてくるマンガ」だった!

音楽マンガの宿命はマンガから音が聞こえてくるかどうかだということを、電子書籍の仕事をしていた頃上司から言われたことがある。

音が聞こえてくるマンガとは何か?


本作は弦楽四重奏+ドラムスでクラシックや民謡をロックで演奏する5人組女子高生バンド「こもりクインテット」の悪戦苦闘の日々を描いたマンガであるが、原作者は既存のロックアレンジを引き出しにストーリーを構築し、彼女たちの演奏が未熟なうちはあえて作画で音が聞こえてくるような熱気は帯びさせず、彼女たちの息が合ってノリを掴んできてからラストスパートをかけるにあたって、本作で初めてかつ唯一作画だけで音が聞こえてくる夏フェスを描き切っている点に注目したい。
しかも、その主役は主人公、相原チカのドラムソロだというのだから驚かされる。
かなり原作の段階で緻密にストーリーを計算していることが伺える。


#09「夢中になれたなら」ではBバンブル&ザ・スティンガーズの"NUT ROCKER"を演奏し(ちゃんとコマに編曲者まで書いてある)、以前には津軽じょんがら節などを演奏するシーンがあった。
いずれも元ネタがかなり古く読者がついてこれる話題ではないが、幸いググればYouTubeなどですぐに元ネタを聞くことが出来るので、ロックに関する知識がなくてもなんとなくTiv氏の描く少女たちの元気あふれる可愛さで乗り切ることができるが、波形をコマにかぶせてもイマイチ音が聞こえてくるような感じはせず、音楽マンガとしてはいささか不満だった。
最終巻にしてこの時点では前巻までと同じで、Tiv氏の描く女の子や音楽マンガには興味があるけど話としては薄いという感想だった。


ところがクライマックスで見事にひっくり返されたのだからたまげたものである。
話としてはベタかもしれないが、それは「音が聞こえてくるマンガ」にするために余計なものを全て取り払った結果なのだろう。


マンガ単体でもそれなりに楽しめるが、調べれば元ネタがきちんとわかり、そこに原作者の並々ならぬ熱意を感じられるという点で、本作の構造はガルパンとちょっと似ている。


3巻を置いてある書店がなかなか見つからず、前巻を読んでからずいぶんと間が空いてしまったが、ちゃんと最後まで読んでよかった。
Tiv氏がこんなに画力のあるマンガ家だとは思っていなかった。


電子書籍の仕事をしていた頃、ある企画でTiv氏を起用したいという話があったことを思い出した。
私は企画とつり合わないし、人気作家で多忙だろうと別の作家を立てたが、その話の先は見ておくべきだったのかもしれない。