カシオのキーボードを10年支える「AHL音源」について調べてみた
3月11日にカシオの光ナビゲーションキーボード「LK-215」を店頭処分特価の、定価の8割引で購入した。
思いのほか音がよく、今後DTM音源として活用すべく、搭載される「AHL音源」について調べ始めた。
今回は「AHL音源」の概要についてまとめる。
【4/5追記】カシオ「AHL音源」の解説サイトを作りましたので、今後はこちらをご覧ください。
「一般向モデルと高機能モデルの共通音色リスト」などDTMでの活用に役立つ情報を掲載していきます。
asialunar.info
AHL音源とは
カシオが開発したAHL(Acoustic & Highly-compressed Large-waveform)音源は、ZPI(Zygotech Polynomial Interpolation)音源の後継として、2003年秋モデルの電子ピアノシリーズ“Privia”1号機「PX-100」から採用されたHL(Highly-compressed Large waveform)音源をベースに、よりリアルで豊かなアコースティックサウンドを実現した改良型である。
カシオのキーボード(通称カシオトーン)では2007年春モデルのハイグレードキーボード「WK-500」で初めて採用され、2007年秋モデルからすべてのラインナップで採用された。
AHL音源採用モデル一覧
型番 | ラインナップ | モデル | 鍵数 | 発音数 | 音色 | USB | 発売時期 | 備考 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
LK-105 | 光ナビゲーション | 一般向 | 61 | 48 | 400 | ○ | 2007秋 | |
LK-107 | 光ナビゲーション | 一般向 | 61 | 48 | 400 | ○ | 2009夏 | |
LK-108 | 光ナビゲーション | 一般向 | 61 | 48 | 400 | ○ | 2010夏 | |
LK-111 | 光ナビゲーション | 一般向 | 61 | 48 | 400 | ○ | 2011夏 | |
LK-113 | 光ナビゲーション | 一般向 | 61 | 48 | 400 | ○ | 2009夏 | ※1 |
LK-114 | 光ナビゲーション | 一般向 | 61 | 48 | 400 | ○ | 2013春 | ※2 |
LK-115 | 光ナビゲーション | 一般向 | 61 | 48 | 400 | ○ | 2012夏 | |
LK-116 | 光ナビゲーション | 一般向 | 61 | 48 | 400 | ○ | 2012夏 | ※1 |
LK-118 | 光ナビゲーション | 一般向 | 61 | 48 | 400 | ○ | 2013夏 | |
LK-121 | 光ナビゲーション | 一般向 | 61 | 48 | 400 | ○ | 2014夏 | |
LK-122 | 光ナビゲーション | 一般向 | 61 | 48 | 400 | ○ | 2015夏 | |
LK-123 | 光ナビゲーション | 一般向 | 61 | 48 | 400 | ○ | 2016夏 | |
CTK-2000 | ベーシック | 一般向 | 61 | 48 | 400 | ○ | 2010春 | |
CTK-2200 | ベーシック | 一般向 | 61 | 48 | 400 | ○ | 2011夏 | |
CTK-2550 | ベーシック | 一般向 | 61 | 48 | 400 | × | 2016夏 | |
CTK-3500 | ベーシック | 一般向 | 61 | 48 | 400 | ○ | 2017春 | ※3 |
CTK-950K | ベーシック | 一般向 | 61 | 32 | 120 | × | 2017春 | ※4 |
LK-205 | 光ナビゲーション | 高機能 | 61 | 48 | 570 | ○ | 2007秋 | |
LK-207 | 光ナビゲーション | 高機能 | 61 | 48 | 570 | ○ | 2009夏 | |
LK-208 | 光ナビゲーション | 高機能 | 61 | 48 | 570 | ○ | 2010夏 | |
LK-211 | 光ナビゲーション | 高機能 | 61 | 48 | 600 | ○ | 2011夏 | |
LK-215 | 光ナビゲーション | 高機能 | 61 | 48 | 600 | ○ | 2012夏 | |
LK-218 | 光ナビゲーション | 高機能 | 61 | 48 | 600 | ○ | 2013夏 | |
LK-221 | 光ナビゲーション | 高機能 | 61 | 48 | 600 | ○ | 2014夏 | |
LK-222 | 光ナビゲーション | 高機能 | 61 | 48 | 600 | ○ | 2015夏 | |
LK-223 | 光ナビゲーション | 高機能 | 61 | 48 | 600 | ○ | 2016夏 | |
CTK-4000 | ベーシック | 高機能 | 61 | 48 | 570 | ○ | 2007秋 | |
CTK-4200 | ベーシック | 高機能 | 61 | 48 | 600 | ○ | 2011夏 | |
CTK-4400 | ベーシック | 高機能 | 61 | 48 | 600 | ○ | 2014春 | |
CTK-5000 | ハイグレード | 高機能 | 61 | 48 | 670 | ○ | 2007春 | |
CTK-6000 | ハイグレード | 高機能 | 61 | 48 | 670 | ○ | 2010夏 | |
CTK-6200 | ハイグレード | 高機能 | 61 | 48 | 700 | ○ | 2012春 | |
CTK-6250 | ハイグレード | 高機能 | 61 | 48 | 700 | ○ | 2016春 | |
CTK-7000 | ハイグレード | 高機能 | 61 | 64 | 800 | ○ | 2010夏 | |
CTK-7200 | ハイグレード | 高機能 | 61 | 64 | 820 | ○ | 2012春 | |
WK-200 | ベーシック | 高機能 | 76 | 48 | 570 | ○ | 2008夏 | |
WK-210 | ベーシック | 高機能 | 76 | 48 | 570 | ○ | 2009春 | |
WK-220 | ベーシック | 高機能 | 76 | 48 | 600 | ○ | 2011夏 | |
WK-245 | ベーシック | 高機能 | 76 | 48 | 600 | ○ | 2014夏 | |
WK-500 | ハイグレード | 高機能 | 76 | 48 | 670 | ○ | 2007春 | |
WK-6500 | ハイグレード | 高機能 | 76 | 48 | 670 | ○ | 2010夏 | |
WK-6600 | ハイグレード | 高機能 | 76 | 48 | 700 | ○ | 2012春 |
※1 ジャパネットオリジナルモデル
※2 LK-115の島村楽器限定カラー(ホワイト)モデル(2,000台限定)
※3 島村楽器オリジナルモデル(CTK2550/CTK4400ベース)
※4 ケーズデンキオリジナルモデル
- 型番はカシオのウェブサイトに取扱説明書PDFがあるモデルからピックアップしたので、海外向けモデルなど抜けがあればご指摘ください。
- 発売時期はAmazonやヨドバシ・ドット・コムを参考にしたのでズレがあるかもしれません。
AHL音源の同時発音数
同時発音数は48音が標準だが、ハイグレードキーボードの一部に64音のモデルがあり、またHL音源と同じ32音モデルも存在する(ケーズデンキオリジナル「CTK-950K」)。
音色は1ボイスまたは2ボイスであり、2ボイス音色使用時は同時発音数が1/2の24音となる。GMトーンは1ボイスである。(←これは間違い)ハイグレードキーボードのドローバーオルガン音色のみ3ボイスである。
ZPI音源(32音)時代には同時発音数が10音の3ボイス音色があったので、AHL音源になり発音数の計算がしやすくなったといえる。
ただし、一部モデルの取扱説明書ではどの音色が2ボイスか記載されていないため、他モデルの取扱説明書を参照しなくてはならない。
AHL音源の音色数
音色数は一般向けモデルの400音色が標準となり、高機能モデルは600音色(旧機種は570音色)に増えている。なお、前出の「CTK-950K」は120音色である。
ハイグレードキーボードの音色数は2012年春モデルの「CTK-7200」が820音色で最高であるが、現行モデル「CTK-6250」では700音色に落ち着いている。
AHL音源のユーザー音色
音色のエディットはハイグレードキーボードのみ対応で、ベーシックキーボードや光ナビゲーションキーボードにはユーザー音色マップがない。
ただし、ユーザー音色がないモデルでも、サンプリング機能が搭載されていれば、サンプリングした音色をMIDIでコントロールすることが可能となっている。
AHL音源をDTMで活用するには
「CTK-2550」と「CTK-950K」をのぞく全モデルにUSB端子が搭載され、PCと接続することでMIDIキーボード・音源として使用可能である。
AHL音源採用後のモデルにはMIDI IN/OUT端子は搭載されていない。
モジュレーションホイールやピッチベンドホイールが搭載されていないモデルが多いが、コントロールチェンジの受信は可能である。
「LK-215」の場合、NRPNには非対応で、音色をエディットできるコントロールチェンジはソフトペダルしかない。機能としてはGMレベル1相当と考えて差し支えない。
AHL音源はAグループとBグループの32チャンネル構成であるが、MIDIを送受信できるのはBグループに限られ、ユーザーが32チャンネルをフル活用することはできない。
しかしBグループがMIDIを送受信している間も、キーボードのパネル上から操作できるインターナルな設定はAグループに保持されるため、MIDIの送受信による音色化けなどのトラブルが少なく扱いやすいハードウェア設計といえる。
音色マップがローランド方式であるため、GSリセットは受信可能になっている(GMシステムオンと同じになる)。しかしXGシステムオンは受信不能である。
音色マップの特徴
音色マップはプログラムチェンジとバンクセレクトMSBで切り替えるローランド方式である。
「エレクトリックグランドピアノ」「デチューンクラビ」「ソーシンセベース」などにカシオトーンらしさが残っているが、全体的に明るくはっきりとしたキャラクターの音色が多く使いやすい。(特に「グロッケンシュピール」の高域のヌケの良さは秀逸)
音色名は日本語で表示されるため、「トランスブラス」など多少ネーミングセンスに難はあるものの直感的に理解しやすい。
音色をエディットできない分、いくつものバリエーションをプリセットして補おうとしている傾向が強く、あらかじめレイヤーになっている音色も多い。
「ベロシティサインリード」は打鍵が強いとアタックでピッチベンドがかかるようになっていて、ピッチベンドホイールがなくても演奏表現が豊かになるような工夫が見られる。
GMトーンに「GZ-50M」のような個性はなく、一見すると不要に思えるが、ティンパニーなどのパーカッションや効果音などGMトーンにしかない音色も一部ある。
また、同時発音数を最大限活かした打ち込みをするには、差し替え用としての1ボイス音色は欠かせない。
ドラムのノートナンバー92~96には「いち」「に」「さん」「よん」「ご」と運指音声がアサインされている。*1
ただし海外向けモデルでは「One」「Two」「Three」「Four」「Five」と英語になっている。
欠点としては、「ボイス ドゥー」「ボイス ウー」「アナログシンセブラス1」などループポイントがイマイチな音色が一部あるほか、ベースやサックスにところどころドが音痴になる音色があるのが気になる。
サンプリング音源である以上、推奨音域を外れると音痴になりやすいのは仕方がないことではあるのだが、ミニキーボード「SA-46」などAHL音源以外のモデルでもみられる傾向なので最近のカシオのクセとして割り切るしかないのかもしれない。
本記事のいきさつ
3月5日にベスト電器滝川店(ツモト)を訪れた際、店頭処分特価のキーボードが気になったが、その日は7インチタブレットPC用のバッグインバッグを買って店を後にした。
長らくハードシンセでDTMをやってきて、5年前に派遣で出雲に行く前にコルグの「X50」を処分して以来、ソフトシンセに移行してみたがなじめずにいた。
その間ローランドの「SK-88Pro」を中古で買うなど、いくつかハードシンセに手を出して「JD-Xi」を持ち帰ってきたが、使いこなせずホコリをかぶった状態だった。
もしかしたらあのキーボードの方が自分に向いているのでは? と気になりだしてしまい、3月11日に再度店を訪れ、定価の8割引で購入したのがカシオの「LK-215」だった。
シーケンスソフトは5年前までヤマハの「XGworks 4.0」を使っていたが、現在はプリソーナスの「Studio One Professional 2」を使っている。
しかし「Studio One」はMIDIに弱く、64ビットOSでは「XGworks」が動かないため、別のシーケンスソフトを用意する必要があり、フリーソフトの「Domino」を検討した。
「Domino」の音源定義ファイルはXMLで記述されており、同じAHL音源の「CTK-4000」のファイルが配布されているので、これをもとに「LK-215」用の音源定義ファイルを作成することにした…まではよかったのだが。
同じAHL音源なのに「CTK-4000」にあって「LK-215」にない音色、その逆がいくつかあり、また「CTK-4000」は海外向けモデルなので音色名が英語表記、「LK-215」は日本語表記などの細かな差異があり、AHL音源に関する知識が不足していることを痛感した。
カシオトーンの歴史についてある程度はWikipediaにまとまっているものの、AHL音源の普及台数に対してDTM音源として活用している人数が圧倒的に少ないのは火を見るより明らか。
また全モデルを網羅的に解説したサイトがないため、メーカーウェブサイトから取扱説明書をPDFでダウンロードしてイチから調べ上げるしかないと思ったのだ。
途方もない作業になるのは目に見えていたが、自分が買った「LK-215」はラインナップのどこに位置するモデルなのか、AHL音源全モデルに対応したMIDIデータを作成することはできるのか、などのモヤモヤした疑問を解消するには行動に移すしかなかったのだ。
各モデルの音色マップやMIDIインプリメンテーションを突き合わせて、それらの疑問に答えを出すのはこれからの作業になるが、AHL音源の全体像がようやくつかめてきたので一度まとめてみた次第である。
音色数の差こそあれど、一般向けモデルも高機能モデルも音源が同じということは、カシオのキーボードがリサイクルショップに安価で転がっていることを考えると、ハードシンセでDTMをやる人にとってはAHL音源という選択肢が増えるかもしれない。
ハードシンセを探している人の一助になれば幸いである。
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*1:ただし「CTK-7200」など運指音声機能がないモデルはノートナンバー92~96が無音。