萌尽狼グ

音系同人サークルASIA LUNAR代表、萌尽狼(もえつきろ)の個人ブログ

『禁重音狂奏曲』の不条理世界について

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トーリーがあるものに音を付ける場合は、まずストーリーを読み込むことになる。

今回、モノフォニック・チップチューンという題材を選んだが、そもそも3音で曲を作らなければならないチップチューナーで、なぜ1音で曲を作るなんて苦行をしなければならないのか? という問いに、明快な答えを出すべく考えたストーリーであったはずが、逆に混乱を与えてしまった気がしなくもない(特に作者自身が)。

作曲する人にとっては、たった1音でなんとかするというのは究極の問いであるのだが、一般の人には伝わりにくのではないかと思って音が1音しか聞こえない不条理世界というものを思いついた。しかしそれは不条理であるがゆえに、考えれば考えるほど厄介なものであることに、リリースしてから気がつくことになってしまったのであった。

なお、以下の考察はあくまで作者本人が自分を納得させるためにまとめたものであり、ストーリーの解釈や募集楽曲の曲想を縛るものではありません。



トーリー

ある日突然、音の重なりを封印された呪われた不条理世界。

残響のない機械的な静寂に戦慄し、人々は皆息を殺した生活を余儀なくされた。
糸電話のような不自由な会話。人数の多寡を問わず一人しか聞こえない挨拶、拍手。

ソリストが台頭し、ピアノはただのガラクタになり、楽団はその存在意義を失った。
音楽史上から8世紀にわたるハーモニーが今滅亡の時を迎えようとしていた。

だが路上のチップチューナーが奏でる摩訶不思議な音に人類最後の希望があった。
高速アルペジオの擬似和音はハーモニーを後世に遺すオーパーツの発見だったのだ。

しかし時を同じくして全世界でマニアを狙ったサウンドチップの破壊、略奪が急増。

調査を進めた国連は、呪いが音による地球支配を企む宇宙人によるものと結論付けた。
ボイジャーのゴールデンレコードは地球の文化的支配という智慧を与えていたのだ。

チップチューナー達は残されたゲーム機を手に音楽の自由を奪還すべく立ち上がった!


筆談が流行る

この呪いは、相手が音を出している最中に、自分が音を出すと、相手の音が遮断されてしまい、自分の音だけが聞こえるようになってしまうというものだ。
例えば、相手が話している最中に、自分が話しかけると、相手は口をパクパクさせているのに相手の声は聞こえず、自分の声だけが聞こえるようになってしまう。

相手が話し終わるのを待って、自分が話しかければ特に問題は起こらない。しかし、相手が楽器演奏中だったりしたら演奏が終わるのをじっと待たなければならない。
そのため、相手の邪魔せず自分の意志を伝える方法として筆談が流行る。

音を立てない文房具というのは選定が難しいが、フリック入力してスマホの画面を相手に見せるくらいなら、音を立てずに誰でもできそうなものである。


SNSに依存している人たちには実害はあまりない

つまり、この呪いはLINEで日常会話をしているような人たちにはあまり関係がない。
音の聞こえ方がおかしくなってしまった世界なのに、人々は順応して今まで通りの生活を送っていそうな気がする。
イヤホンで音楽を聴いている人がイヤホンが壊れてしまったと思うくらいで。壊れているのは世界なのに。


ノイズの集合体として聞こえて精神を病んでしまう場合も

都会の喧騒は今までただなんとなく意識の外に追いやっていただけのものが、ノイズの集合体として耳に入ってくるだろうから聞くに絶えず、精神を病んでしまうだろう。


耳栓が流行る

音を聞かないことにしてしまえば精神の安定が保てるかもしれません。
ノイズキャンセリングイヤホンがバカ売れしそうな気がします。キングジムのMM1000とか特に。

キングジム デジタル耳せん   MM1000 ホワイト

キングジム デジタル耳せん MM1000 ホワイト


無響室が流行る

世の中が無響室みたいなものだから、叫びの壷的に流行るかもしれない。


音源チップは壊れていない

人類最後の希望であるチップチューンだが、呪いのせいで音はひとつしか出ない。
ここで注意しなければならないのは、音がひとつしか出ないのは、音源チップが壊れてしまったからではないことだ。

例えばゲームボーイなら、矩形波・波形メモリ・ノイズのどれか1音が使えるという制約がかかっているだけで、どれか機能していないわけではない。
路上のチップチューナーはそれにいち早く気づいて、今もストリートでピコピコやっているのである。

※本作が#OneChannelChipChallengeではないのはこのため。


聴覚に作用する呪いなので物理の法則は乱れていない

この呪いを理解するうえで、作者自身も混乱したのがこの点である。

おそらく、マイクで拾った音をスペクトラムアナライザーで見ると音の重なりが自然に記録されているはずである。
しかし、その録音を再生すると、モノフォニックになるので、同時に鳴っている和音のうちのどれか1音か、次に発せられた音のみが聞こえるようになってしまう。※

つまり、呪いは聴覚に作用しているだけで、物理法則を捻じ曲げてはいないのである。
聴覚に異常はないのに、音の聞こえ方がおかしい。誰かがおかしくなったのではなく、全世界の人々が一様におかしくなった、というものなのだ。

※和音のうちのどれか1音は、人によってどの音が聞こえたかについては差異がある。呪いが音を選別しているわけではないのである。


呪いがかけられたのは人間だけなのか?

調査が待たれるところである。

聴覚に作用する呪いをかけられて一番困るのは、文字によるコミュニケーション手段を持たない動物たちだ。

環境に適応して進化するのか、それとも適応できずに謎の大量死をするのか。


宇宙人について

もっとこう地球外生命体とか言い方はあるような気もしたが字数の関係で宇宙人になった。
魔法使いの宇宙人を、宇宙魔人とか宇宙魔女といった呼び方にしてしまうといろいろと面倒なので、やっぱり宇宙人になった。

ボイジャーのゴールデンレコードに記録された自然音、言語、音楽から、宇宙人は音楽だけを標的にしたと考えている。
おそらく、音を一切封印する呪いというのはかけられるのだと思うが、なぜ1音だけ残すという面倒なことをしたのか。

地球と同じような環境の生命なら、自然音に関しては理解できるだろう。
問題は言語と音楽で、ゴールデンレコードに記録されているのは挨拶だから、言語間の継ぎ目に重なりはあるもののごちゃごちゃとした会話ではない。

この宇宙人にとって地球の音楽は理解しがたいものと受け取られてしまったかもしれない。特に音楽理論には強い敵意が向けられた。
そのため、単音にしても音楽理論を捨てない地球人とは友好関係になれないので、敵対することになる。


やってしまったねアライさん

映像化しにくい題材だし、世の中というジグソーパズルから大事なピースを失くしてしまうという創作はめんどくさいことこのうえないので、よい子は真似しないでほしい。