萌尽狼グ

音系同人サークルASIA LUNAR代表、萌尽狼(もえつきろ)の個人ブログ

ASIA LUNARの現状に基づく同人音楽流通を取り巻く環境の変化と課題

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ASIA LUNARの現状の課題を少し図にまとめてみました。同人音楽流通を取り巻く環境の変化について、年代を追って振り返ってみましょう。

1990年代の同人音楽黎明期はCDといえばプレスでしたが、プレスCDといえば即インディーズ流通だった時代。トルバドール・レコードもそういう性格を帯びていました。
一般的な配布メディアはカセットテープやMD、そしてMIDIMMLを記録したフロッピーディスクであり、CD-Rが普及してくるのはメディア、ドライブともに価格が下落し始めた90年代末期、Windows98SE全盛期になってからです。
CD-Rは最初はPCソフトをコピーしてもらうためのものでしたが、リッピング精度が悪くオーディオトラックがズレてしまったりうまく読み込めなかったりしました。また、落としたらデータが消えてしまうほどCD-Rも脆弱でした。
CD-Rの普及期とMP3の登場は時期が重なっており、同人音楽の隆盛は一般的には音楽の違法コピーが氾濫し始めた時期として認識されています。

2000年代前半、同人印刷業者がCDプレスも始めるようになり、またCD、DVDパッケージでの同人ソフトの流通が一般的になり始め、同人即売会でプレスCDを出すサークルが増えてきます。
とらのあなメロンブックス、そして今はなきメッセサンオーといった大手同人ショップが注目を集め、同人ゲーム『月姫』や東方シリーズが大ブレイクしたのもこの頃です。
東方ブームによって、既存のアダルトショップの同人コーナーに東方グッズ専門コーナーができ、それを専門に扱う同人流通業者が現れ、俗に言う東方流通といったものも根付いていきます。
CDプレスの最低ロット数は300~500枚と同人即売会のみの参加では搬入コストなども含めて捌ききれませんが、委託によって全国・アジア圏にばらまくことが可能になり、今やプレスが主流です。

一方CD-Rはデータ記録メディアがDVDに移行したこともあり三井化学などの高品質メーカーの撤退、三菱化学台湾工場火災によるアゾ色素供給不足*1、中国・台湾製粗悪メディアの流通など品質低下が著しく、ユーザーを悩ませます。
CD-Rで作製した同人音楽CDの取扱いについては同人ショップによってまちまちであり、私も過去にメロンブックスと取引がありましたが、全国流通のため初回納品数が100枚と個人で対応するには相応の気力と体力が要ります。
大量のCD-Rを一気に焼くデュプリケーターというものもありますが導入コストはそれなりにかかるので、CDプレスとどちらがよいか天秤にかけることになり、多くの人はCDプレスを選びます。
なぜなら、CD-Rを商品化するにはジャケット・バックインレイ・帯・ライナーノーツを印刷して裁断、折り加工し、袋詰めする作業が伴うからです(これを萎え同人といいます)。
プレスCDの場合は、印刷所に入稿するデータ作成にIllustratorが必要になる場合が多いですが、それを乗り越えられればキャラメル包装して即売会会場への納品まで業者が全部やってくれることになります。
またCD-Rの同人音楽は中古同人ショップで買取を拒否される(複製品と判断される、また盤面印刷がない作品も多く査定不能のため)ことも多く、受け手としては扱いにくいのも事実です。

2015年には唯一の国産メディアであった太陽誘電も撤退してしまいました。CD-Rで細々とやっていたサークルも、ここに来て転換を迫られます。
2000年代はAppleiPodの普及により音楽配信ビジネスが急速に発展しましたが、同人音楽にその影響が現れたのはやはりVOCALOID初音ミクの大ブレイク以降でしょう。
個人でも商品にバーコードを付ければAmazon流通も可能になり、またAmazon音楽配信サービスをやっています。
タワーレコードなどのCDショップ以外にもヴィレッジヴァンガードなどでもインディーズ盤を取り扱うようになり、音楽流通の選択肢は増える一方です。
音楽市場はCDよりもライブのほうが売れる時代、手売りのCDの延長線上で同人即売会があると捉えられている方も多いのではないでしょうか?

同人ショップを介さずに自前でECサイトを立ち上げての自家通販をサポートするWebサービスも増えました。発送作業の手間と同人ショップの販売手数料の問題もありますが、作り手・受け手の顔が見えるため自家通販はより同人即売会に近いと言えそうです。既に多数のファンをお抱えの方であれば、自家通販の方が向いているといえるでしょう。
また音楽配信サービスが国内外に多岐にわたるため、音楽配信登録代行業者も増えてきました。その中にはCD制作まで一気に引き受ける業者もあります。曲作りに専念したい人にはうってつけですね。

このように、同人音楽流通を取り巻く環境はこの20年で大きく変化し、CD-Rで小ロットをハンドメイドするASIA LUNARとしては、作った音楽をターゲット層に届けるにはそれが適当かどうかを含めて、多くの課題を残しました。
同人音楽即売会は東京でM3が、京都でMUSIC COMMUNICATIONが定期開催されています。私が東京在住だった頃はM3の常連でしたが、都落ちして6年、核となるイベント参加がうまく回らなくなり、途端に生存が危うくなる世界の狭さ・脆さを感じている次第です。
ここは一度身を引いて、自分の音楽がどうあるべきかを、じっくり考えるべきときが来たのではないかと思ったのが、ASIA LUNAR活動終了のひとつの理由です。

参考

*1:CD-Rの色は緑(シアニン)・金(フタロシアニン)・青(アゾ)の3種類で、アゾはプレイステーション2のような盤面で人気がありました。太陽誘電はシアニン、三井化学はフタロシアニンで高品質のCD-Rを製造していたので、中国・台湾メディアの多くはフタロシアニンですが、フタロシアニンだから粗悪という意味ではありません。