旧萌尽狼グ

同人音楽サークルkaguyadepth代表、萌尽狼(もえつきろ)の個人ブログ ※更新終了

1音チップチューンについて(新曲あり)

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鼻歌でメロディーを口ずさみながらベースラインやドラムもひとりでやろうとすると大変なことになるのは想像に難くないことと思います。
それもそのはず、人間の声は単音(1音)なのです。ホーミーのような特殊な歌唱法をのぞき、人はひとりでは和音を歌うことはできないのです。

ではコンピューターミュージックはどうでしょうか?
チップチューンでは高速アルペジオというテクニックがありますが、これはアルペジオ(分散和音)を高速で鳴らすことによって「あたかも和音が鳴っているように聞かせる」というものです。

この「あたかも和音が鳴っているように聞かせる」ことができる点に着目して、和音だけでなくメロディーもベースラインもドラムも1音で鳴らせてみようというのが1音チップチューンです。


1音チップチューンの作り方

asialunar.info

基本的には既にゲームボーイサウンドフォントのウェブサイトで解説している1パートで2音鳴らすテクニックと同じなのですが、メロディー・バッキング・ベース・ドラムと1音で4パートくらいはやりくりしたいので、さらにパズルゲーム的な思考が要求されることになります。

既存の曲を1音にアレンジする場合

その瞬間瞬間で一番特徴的で大事だと思うパートを優先して、出来る限り短いノートで打ち込んでいきます。短いノートにすることで休符をつくり、そのすき間に別のパートを入れていくのです。
動画では『アフターバーナー』を打ち込んでいますが、オーケストラヒット>メロディー>スネアドラム>ベース>その他のパートで優先順位を付けて特徴的なフレーズのみを抜き出して打ち込んでいます。

スネアドラムやベースは「リズム隊」と呼ばれるもので、リズムをキープする以上タイミングとアタック感が何よりも重要です。
メロディーもそのタイミングで鳴ってないと違和感がある場合はリズム隊よりも優先されます。
ところがその他のパートは裏拍で鳴っていてもなんとか聞けてしまうのです。BPMが速い曲だというのもごまかしやすいポイントかもしれません。

動画の例ではパソコン内蔵のビープ音を鳴らしている都合上、ボリュームもピッチベンドも何も使うことができませんので、メロディーのディレイは音が減衰せずピーピーピーピーと鳴っていますし、スネアドラムも汚い高速アルペジオを鳴らした疑似ノイズになっています。その点はご了承ください。


オリジナル曲を1音で作る場合

基本はアレンジする場合と同じですが、シンコペーションを多用して意図的に休符を作っていくことになります。

今回はなんとなくファンクっぽいものを作ってみようと思ったので、カッティングギターがきっちり聞こえていればそれらしく聞こえるだろうと優先順位を高めに設定しています。
なので、Aパートのメロディーは休符に適当にノートを置いていってメロディーとして聞こえそうなラインを探っていってます。

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Bパートではオクターブ重ねのブラスっぽいメロディーを先に打ち込んで、カッティングギターやベースがその合間を縫っていくという作曲方法に逆転しています。
さらにあまった休符にパーカッションを入れることでにぎやかしている感じです。1拍目のベードラはディスコサウンドっぽくしたかったのでなるべく入れる方向で。

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白玉でのばしたり、駆け上ったり駆け下りたりするメロディーは1音チップチューンは苦手なので、スカスカなフレーズの組み合わせでいかにアンサンブルしているように聞かせるかがポイントとなります。


1音チップチューンな携帯ゲーム機

PSGが登場する前後のパソコンやゲーム機、サウンドカードが挿さっていないパソコンのビープ音など、1音しか鳴らない機種というのは意外と多くあるのですが、ここではそれより後の年代に登場した1音くらいしか鳴らない携帯ゲーム機の代表的なものを取り上げます。

ポケットステーション

プレイステーションメモリーカードとしても使える小さな携帯ゲーム機。32×32ドットモノクロ液晶。

ソフトはプレイステーション用CD-ROMとして発売され、メモリーカードに保存して遊んだので、単体では動作しないプレイステーションの周辺機器という位置づけです。
プレイステーション本体で遊ぶゲームとデータ連動するミニゲームを外出先でも遊ぶことができるようになるというもので、赤外線通信機能がありコミュニケーションツールとして機能しました。

ドリームキャストでもビジュアルメモリという類似品がありましたが、こちらはソフト内蔵で単品販売されたものがあります。
ドリームキャストの場合はコントローラーのサブ画面として機能するため、実質的に必須アイテムとなっていました。

代表作は『どこでもいっしょ』。人間になりたい猫「井上トロ」に言葉を教える育成ゲームです。言葉と育成という点で同時期のヒット作『シーマン』と共通しています。
どこでもいっしょ』以外にヒット作が生まれず数年のうちに市場から姿を消しましたが、32ビットCPUのためボタン電池の持ちが悪かったのも一因といえます。

さて、内蔵音源はPCM音源×1となっており、PCM音源なのでサンプリング音声を鳴らしたりすることができます。またサウンドドライバによっては和音を鳴らせるものもあるようです。
このへんPCM音源の発音数をサウンドドライバ側でなんとかするというのはX68000PC-98、同じ携帯ゲーム機だとP/ECEあたりが思い当たりますね。

なのでチップチューンとしてはやや的外れではあるものの、同時発音数としては1~2音の機種ということができるでしょう。
なおポケットステーションの公式エミュレータプレイステーションVitaで配信されているので、ゲームアーカイブスの対応タイトルを手軽に楽しむことができます。


ポケモンミニ

ポケモン専用のゲーム機でカートリッジ交換式の携帯ゲーム機としては世界最小。

『たまごっち』と『ミニテトリン』の爆発的ヒットによってキーチェーンゲームというゲーム&ウォッチブームの再来が1990年代後半から2000年代初頭まで続き、前出のポケットステーションもその中で発売されるわけですが、ハドソンの『てくてくエンジェル』のヒットによって万歩計を内蔵したゲーム機というのが一定のシェアを占めていきます。小さな子供が何かを必死にシャカシャカしているのを見た覚えがある人もいるのではないでしょうか?
その子供たちが握っていたのが『ポケットピカチュウ』という万歩計ゲームだったわけで、ポケモンミニはいわばその後釜として市場投入されたゲーム機ということになります。

注目すべき点は万歩計同様振動センサーを内蔵しているわけですが、『ポケモンショックテトリス』(てんかん事件後なのにすごいタイトルだ)では背面タッチすることでテトリミノが左右反転するなど、コントローラーのひとつとして活用する方向にシフトしていったこと。背面タッチといえばプレイステーションVitaなのですが、それ以前に背面タッチを備えたゲーム機があったんですねぇ。

また、赤外線通信機能に関してもゲームボーイカラーから大幅強化しており、ポケモンショックテトリス』ではかなり遅延はあるもののリアルタイムに通信対戦が可能。また『ピチューブラザーズミニ』では最大10台と通信可能任天堂おそるべしといった進化ぶりです。この辺もまったく評価されていないのがかなしいですね。

さて、内蔵音源は圧電ブザー×1となっています。音色はゲーム&ウォッチと似ていますが細かなところでこちらも機能強化されています。
本体ボリュームは4段階あり、ボリュームが下がると音色も変化していきます。つまり、最大音量のときは3種類の音色を使え、最小音量のときは全部同じ音色になるのです。
音色は最大音量のときが矩形波に近く、音量が下がるとノコギリ波に近くなっていきます。また、振動センサーのブルブルとした音も音源として使えます。

効果音が割り込んでいるにもかかわらず、聴感上は1音とは思えないプレイ感覚はぜひ実機で味わっていただきたいですね。
曲調も古きよき任天堂サウンドを継承しており、マニアもうなる内容となっています。

動画ではポケモンミニの本体内蔵スピーカーからマイクで音を拾って、サンプリングでオリジナル曲を作っています。
音色は確かにキーチェーンゲームのそれなのですが、音量差でこれだけ音色が違うと表現の幅も広がるというものです。


hallyさんいわく「PSG以前の1音しか鳴ってないマシンっていうのは、すっごい敷居が高い」

昨晩TwitterのTLを眺めていたらhallyさんが出るというので、たまたま「とびだせ!スーパースィープ!!」を観てたんです。


とびだせ!スーパースィープ!!

その中でhallyさんがまだやったことがないゲーム機を列挙していく流れになって、スーパーカセットビジョンぴゅう太が出てきて、

「あの、PSG以前の1音しか鳴ってないマシンっていうのは、すっごい敷居が高いんですよね」

とhallyさん苦笑いしてまして(1時間24分あたり)。まあそれはhallyさんもさんざん1音のゲーム機を聞いてきてるから自分には手が出せないとおっしゃっているのでしょうけど、なんか自分はhallyさんがまだ1音チップチューンに目覚めていらっしゃらないというふうにちょっと勘違いしてしまいまして、これは1音チップチューンの素晴らしさを啓蒙すべく久しぶりに新曲を作らなければならないなと思ってしまったんです。

とりあえずhallyさんを1音チップチューン沼に引きずり込むにはやっぱり『マッド・シティ』みたいなファンクが作れることを実証するのが一番かと思いまして、なんとなくそれっぽいものをサクッと作ってみました(脳内では冒頭のサイレンの時点で1音じゃ無理だと思ってるんですが)。

soundcloud.com
(前出のニコニコ動画と同じ曲です)

今回は機種を特定していないのでゲームボーイサウンドフォントを使っています。なのでベロシティでディレイ付けたり、スィープでパーカッションが鳴ってたりします。まあ試作なのであんまりしばりがキツイと打ち込むのも大変ですからね。

それはそうと最近ようやくWindows7 64bitでXGworks 4.0が動いたんですが、Studio Oneの64分音符までグリッドできるのに慣れてしまうと、XGworks 4.0にはもう戻れませんね。特にこういう高速アルペジオをガンガン鳴らしていく曲の場合は。

というわけで、チップチューンは3音“しか使えない”音楽なのではなく、3音“も使える”音楽なのだということを改めて認識していただき、さらなるチップチューンライフをお楽しみいただければと思います。