旧萌尽狼グ

同人音楽サークルkaguyadepth代表、萌尽狼(もえつきろ)の個人ブログ ※更新終了

リズと青い鳥の感想(ネタバレあり)

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オープニングから音としぐさへのこだわりが見られ、そのひとつひとつに目と耳が釘付けになった。こんなに細かく描いていては、いつこの物語が終わるのかという不安さえした。
みぞれがたたずんでいる空間、時間の流れるスピード、空気感、明るさ、視界の広さ、息遣い、そしてお互いの距離感をつぶさに描写している。この物語は物語のスピードで描かれていない。常にみぞれペースなのだ。
希美が現れる前に別の女子が通り過ぎていくけど、人の歩き方というのは歩幅、股の開き方、足音、歩くスピード、シルエット、すべてが違い、それだけで個人が特定できる(クリーンルームで働いていた経験上)。
あそこで観るものに希美?いや違う、次こそ希美?と思わせることで、気持ちは一気にみぞれに引き寄せられた。
音はASMR的であり、ああ早くヘッドホンで聴いてみたいというのが第一印象だった。もしかしたらヘッドホンだったら微かにみぞれの心臓の鼓動が聞こえるのではないか、と思ったほどだ。
廊下の大きなガラス窓の鍵を外して窓を開ける瞬間の響き方とか、リアルな音というよりはエフェクトを加えて誇張されたもののような気がしたけど、なんだか学生時代に実際に聞いたことがあるような響き方で、とても印象的だった。
みぞれも観る側も耳ではなく心で音を聞いている、認識している、それを的確に表現している、素晴らしい音響効果だと思う。

響け!ユーフォニアム』は北宇治高校吹奏楽部が全国大会で金賞を取るという目標が物語の骨で、それにまつわる青春の日々は肉付けに過ぎないのだけど、本作『リズと青い鳥』ではみぞれと希美の日々が骨で、それを取り巻く学生生活や部活動は肉付けに過ぎず、立場が逆転している。
しかしながら「リズと青い鳥」という物語と、それを元にした吹奏楽オリジナル曲があり、「リズと青い鳥」をどう表現するか?という課題に導かれる形で物語は進んでいく。
吹奏楽コンクールがその後どうなったかは描かれず、この点においても『響け!ユーフォニアム』とは作品性を異なるものとしている。

オープニングほどのスピード感ではないものの、『響け!ユーフォニアム』に比べると日常描写がより多く盛り込まれている。
女子トーク、女子の間で流行っている遊び、授業風景、理科室のフグへのえさやり…それら全てがみぞれにとって無関心そうで他愛もないもののようでいて、しかしながら深く深く物語にからんでくる。

希美のことを書いていなかった。
前夜、年のためと思ってアニメ2期の1~4話を見返していたんだけど、コロコロ表情が変わる明るいキャラで、なんだ結構可愛いじゃんっていう印象だった。
そして自分を中学の吹奏楽部に誘ってくれたやつも、自分が決心して部室に足を踏み入れた頃には、風のように消え去っていたという記憶もよみがえってきた。

その彼とは別に、小学生の頃から互いに意識していたやつがいて、今でもFacebookではつながっているんだけど、向こうはもう妻子持ちで、ここ数年は年賀状くらいしかやり取りしてない。
そいつは音楽の道をあきらめて看護の道に進んだ。俺は音楽の道を選んだ。そういえば陸上自衛隊の音楽隊から誘われたこともあった。
こうしてみると自分にはみぞれに重なる思い出が多い。

希美の印象は映画でも相変わらずで、音楽室のドアを開けて入る前に踵を返すところとか、実に彼女らしい。
でも一番印象的だったのは、新山先生と廊下で音大進学について話をしたときに、一歩退いてから挨拶した場面だった。なんかこう、とても胸に引っかかる挙動だった。

吹奏楽の合奏は皆自分の音以外が聞こえなくなってしまいがち。なのにみぞれのオーボエに魅了されて周囲の演奏がおぼつかなくなってしまうなんてことがあるのか。
ハイパスされてくぐもった合奏、フルートとオーボエだけが誇張された演奏は、音量バランスとしてはとても褒められたものではないけど、心象風景としては極めて的確で、カメラのレンズが時折焦点が合わなくなっているのも、手ブレしているのもとても効果的だった。

自分の場合は、社会に出てから、なぜこの道を選んだのかということを、何度も自問自答することになるのだけど、希美のなんとなく音大って言ってしまった後の気持ちの整理のつかなさはよくわかることである。
希美の性格を考えると、周囲の引き留めにあって、みぞれとの関係性のために考えを改めて、再び音大を目指して動き出したのは、少し可愛そうにも思える。
ただ他人のことを考えずに動いているわけではないから、そこでしっかり自分を見つめ直してアクションを起こしたのも、また彼女らしいのかな。

それにしても塚本、お前部費くらいちゃんと払えよ。変なところで存在感出しやがって。